① 光が多いこと
空間の明るさ感は光束や照度では決まりませんが、明るさ感を適切に考慮した設計を行えば、一般的には空間に存在する光の量が多い方がより明るく感じます。
照明設計の現場では、「光束」や「照度」という言葉がよく使われます。
単位はそれぞれ、光束:lm(ルーメン)、照度:lx(ルクス)と表されます。
「照度が○○ルクス以上なので、□□ルーメンの照明が△△台必要ですね」といったように、照明設計者とお客様との間の共通言語として使用され、照明設計作業を円滑にしています。
非常に便利な指標である一方、全光束や照度のみに基づいた設計では、設置後に「イメージと違った」、「思ったよりも明るく感じない」といったことが起きます。
全光束や照度は、確かに明るさを表現する一つの重要な指標であるにも関わらず、なぜそのようなことが起こるのでしょうか。
さて、明るさ感という言葉をご存じでしょうか。
「感」とついている通り、人の明るさの感覚量のことです。
下の画像をご覧ください。
画像3 どっちが明るい?
(a)と(b)でどちらが明るく感じるでしょうか(画像3)。
実は床面の照度では(a)の方が高いのですが、(b)の画像が明るいと感じた方が多いのではないでしょうか。
私達は、物や、物を含む空間全体を見るときに、光源(太陽光や人工光)から放射された光が、視対象物に反射した光(輝度)を目で捉えています。(a)に比べ(b)の画像は、床こそ暗いものの、壁や天井が明るく、より多くの反射光が目に入ってくることになります。
一方、照度はあくまで、ある面に入る光の量を表しており、その面を見た時の明るさは表現できません。目に入ってくる光は輝度で表されます。
明るさ感の評価には「照度」ではなく、「輝度」を使い、さらに観察方向(視野)を明確にすることが大事です。また、空間の明るさ感を確保するには、壁や天井の照明にも配慮する必要があります(画像4)。
画像4 どっちが明るい?(光線あり)
明るさ感が照度ではなく、輝度と深く関わっていることが分かりました。
しかし、定量的に把握できる指標がないと、実務レベルでの適用は困難です。
近年、産業社会全体として、多様化や、更なる省エネルギーといった時代のニーズがあり、照明業界においては、特定面の照度を適正範囲内で落としつつも、実際の明るさ感、ものの見え方を表現する実践的な考え方や手法(Feu ア)、LUPIN イ)、QUAPIX ウ)、REALAPS エ)など)が普及し始めており、ユーザーの望む多様な光環境を、省エネとともに実現できるものと言えます。
また、これらの明るさ感評価法は、「照度」ではなく「輝度」に基づいたもので、先進的な建築プロジェクトにおいて導入が進んでおり、次々に開発されるツールが広まっていけば、今後あらゆる照明設計のシーンで、輝度設計が行われると考えられます。
明るさ感を上げる要素について、よく知られているものを紹介します。
空間の明るさ感は光束や照度では決まりませんが、明るさ感を適切に考慮した設計を行えば、一般的には空間に存在する光の量が多い方がより明るく感じます。
蛍光ランプは、演色性と明るさ感の関係がよく対応し、演色性が高くなるにつれ、明るさ感が増すことが知られています 1)。 同照度の条件下における、各種蛍光ランプの明るさ感比較報告によると、三波長型蛍光ランプ(Ra=84)が最も明るさ感が高く、従来型白色蛍光ランプ(Ra=63)による照度の140%程度の明るさに相当するとされています。
グレアは、「目が見ているものの明るさに比べて強すぎる輝度のものが視野の中に入ると見え方が低下したり、不快な感じを受けることがある。このような現象をグレアと呼んでいる。」とされています 2)。
減能グレアは、例えば夜間運転中の対向車のヘッドライトにより瞬間的に視界がなくなるような眩しさです。不快グレアは、光源が気になり、長時間になるとストレスになるような眩しさです。
グレアの程度によっては、反射的に目をつぶったり視線を逸らしたりします。視対象が明るく見えるかどうか以前に、視界の有無の問題になってきますので、できる限り抑制すべきものです。グレアの明るさ感への影響は、次の項で説明します。
今いる視環境が、どのレベルの輝度に順応するのか(またはしているのか)が大切です。
人間の目は、周囲の明るさに変化があると、瞳孔の開閉により、取り入れる光を調節しています。先に述べた対向車のグレア光なども、昼間の消し忘れのヘッドライトでは問題になりません。明るい環境に順応していると、眩しいはずのヘッドライトもその程度が軽減され、夜間と比較すると、眩しさを感じにくくなります。
実際の屋内照明環境では、極端に厳しいグレア源(太陽光の入り込みなど)があり、その光に順応してしまうと、せっかく天井照明された室内も暗く感じてしまいます。
複数の被験者に、均一な輝度面とコントラストのある輝度面(ともに平均輝度は同じ)の異なる2つの輝度面を観察させ、ME法(主観評価による感覚の数値化)を用いた明るさ感の比較研究が報告されています 3)。
その報告によると、均一な輝度分布をもつ視対象面に比べ、コントラストのある輝度分布をもつ視対象面を観察する際は、明るさ感が低下すると結論づけられています。
輝度のばらつきが少ない(一様に明るい)視対象面の方が、より明るさ感を得やすいとも言えます。
同じ照明下でも黒い壁よりも白い壁の方を見た時の方が明るく感じます。(画像5)
これは反射率の違いによる効果で、結局輝度を捉えていることになります。
明るさ感を考える際には、視野に映り込む壁や床、天井、その他付属物等の表面色(素材)にも配慮する必要があります。
画像5 壁面の色の違いによっても明るさ感は異なる
ここまで紹介した通り、将来的には、輝度による明るさ設計が広まると考えられ、既に、輝度設計の規準整備もなされ始めています 4)。
多様化が叫ばれる社会背景もあり、今後は、照明においても、ユーザーの必要な光、好ましい光は異なることから、それらニーズの一つ一つに応じた多様な器具が生み出され、選択されていくのではないでしょうか。